ロシアのウクライナへの軍事侵攻から1年半が過ぎ、ウクライナでは2度目の冬を迎えようとしています。戦闘状況は硬直化しており、停戦を求める動きも力を得るに至っていません。戦禍の中でウクライナ市民がこの冬を乗り越えることができるのか心配です。
また、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが10月7日、イスラエルに大規模な攻撃を仕掛け、両者の軍事衝突に発展しています。天井のない監獄と呼ばれるガザでは多くの市民の命が失われています。
いずれの紛争も歴史的背景や大国の思惑などが複雑に絡み合った事態ですが、いかなる背景があろうとも、全く罪のない市民や子どもたちが武力衝突に巻き込まれ、多くの命が奪われることは正当化できません。
国際的な平和維持の機能が働かない、いま、平和主義を掲げる日本こそ、こうした紛争に対して武力行使の即時停止、和平への後押しをするリーダーとなるべきです。
8月にはウクライナを忘れない「平和の花束」と題してチャリティコンサートと絵画・写真展を開催、9月には「ウクライナ戦争から見る、日本と世界の平和のためにできること」と題してシンポジウムを開催しました。以下、報告いたします。
「平和の花束」コンサート、絵画・写真展を開催
8月1日、戸塚区民文化センターさくらプラザホールにて、ウクライナの歌手、カテリーナさんをお招きして「平和の花束」チャリティコンサートを開催いたしました。客席数451名のホールがほぼ満席になるお客様にお越しいただきました。併せて、さくらプラザギャラリーをお借りして、絵画・写真展を開催、鈴村稔さんのウクライナの風景画、ヤマザキマコトの花々の写真と動画を展示、多くの皆さんにご来場いただき、募金にもご協力をいただきました。
カテリーナさんからは「戦争を一刻も早く終わらせたい、でもこのままロシアの侵攻を許したまま戦争を止めるわけにはいかない。それはウクライナのためであると同時に、全ての平和な国々のため。第2、第3のウクライナをつくらないために、ウクライナは絶対にロシアに屈しない」とのお話しがありました。ウクライナの皆さんの思いをどのように受け止めるべきか、いま、世界の対応が問われています。
戦争を回避せよ
9月29日には「ウクライナ戦争から見る、日本と世界の平和のためにできること」と題して、シンポジウムを開催、防衛・安全保障の専門家、元内閣官房副長官補の栁澤協二氏、国際弁護士で新外交イニシアティブ代表の猿田佐世氏のお二人にご講演いただき、日本と世界の平和について議論しました。
栁澤氏からは、ウクライナ戦争から学ぶべきこととして、第一に、大国の武力に頼る抑止には限界があること、大国が戦争をするということは世界大戦を意味し、その代償は極めて大きくなる。そのために大国は動くことができない(ロシアとの直接の戦闘を避けた米国の判断はこうした背景があった)。このような状況から外交なしに戦争は防ぐことはできないということを理解すべき。
第二に、戦争を始めることは容易でも、それを終わらせることは困難であり、平和を創ることはもっと困難である。平和とは双方があらたな現実を秩序として受け入れることを意味するが、こうした受容を創り出すことは極めて難しく、時間がかかる作業である。
第三に、戦争は政治家や軍人に任せるにはあまりにも重大であり、国民の自覚が求められる。
これらの分析を通して、結論として、戦争回避に全力を尽くすことより重要なことはないとの説明がありました。
自民党政権は、国際的な緊張関係を理由に抑止力の強化を打ち出し、防衛費の倍増の方針を決めてしまいました。この点について、栁澤氏からは「抑止」は反撃の恐怖による戦争意思の抑圧であり、軍拡競争につながる。いま必要なのは、戦争を誘発する利益を害しない保証、すなわち相手の戦争動機をなくす「安心供与」が重要との指摘がありました。いわゆる「台湾有事」に当てはめると、台湾と中国の関係の現状維持を保証することが安心供与につながることになります。
このような視点で外交を展開することこそが戦争をさせない、戦争をしない道につながるといえます。戦争を他人事とせず、他国の戦争、沖縄のこと、自衛隊のことを自分事として、国民の皆さんに戦争のリアリティーを理解いただくことが大切です。軍事大国の道を選ぶのか、戦争回避の外交大国の道を選ぶのか、国民の選択が問われています。
ASEANに学ぶ外交の力
猿田氏からは、外交による平和の実現に向けた取組として、ASEANの事例が紹介されました。
ASEANは米中の対立を念頭に「地域の平和と安定を脅かす争いにはかかわらない」とのメッセージを発信し、米中に自制を求めています。
例えば、シンガポールのリー・シェンロン首相は米国の政治専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に投稿し、「アジア諸国は、アメリカをアジア地域に死活的に重要な利害を有する『レジデントパワー』だと考えている。だが、中国は目の前に位置する大国だ。アジア諸国は、米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることを望んでいない。」と訴えています。下図が示すとおり、ASEANでは、米中のいずれかを選ぶと応えたのは6%にすぎず、多くが米中どちらのサイドにもつかない、ASEAN独自の路線をとることを表明しています。
ASEANは、最大の貿易相手国である中国との経済関係を無視した軍事的対立はありえないと考えています。それが米中のいずれも選択しないという意思決定の背景にあります。同様に日本も、貿易相手国の一位は中国であり、その相互依存関係は極めて深いにもかかわらず、軍事的には中国を敵視する政策をとっています。武力行使に至る前には経済制裁が行われるものですが、自民党政権は軍備増強の話ばかりで経済的にどのような対応ができるのか説明していません。明らかに矛盾をはらむ自民党政権の軍事力倍増の防衛政策は日本の平和を脅かすものです。
猿田氏は、米国とは良好な関係を維持しながらも、米側陣営の強化に偏りすぎない。特に、軍事的同盟・準同盟関係の強化には対立を深めないよう慎重さが必要、中国とは各レベルにおける「制度化された」対話ルートを確保すること、日本は「ミドルパワー」の国であることを認識し、韓国や東南アジアなど、「選択を迫るな」と叫ぶ各国と連携して、米中対立の緩和を呼びかけるべきと提案しています。
日本の役割、日本にできること
日本が目指すべきは、あくまでも戦争回避であり、そのために外交力を高め、日本独自の理念と思想をもって平和を訴えることです。その基本は、平和主義、法の支配、民主主義、人権尊重であり、その模範を日本が率先し、グローバルサウスのような新興国も含めて世界各国から支持を得ることが何よりも重要です。大国による国際秩序が壊れた世界で新たな国際秩序の構築が求められています。そのリーダーシップを日本こそとるべきです。
山崎誠はこうした戦争回避、平和を守る政治の実践をお約束します。