毎年実施している、東京電力福島第一原発の視察に、5月12日行ってきました。
東京電力福島第一原発の廃炉作業は東日本大震災と原発事故から14年を経た今もなお、先の見えない状況が続いています。2025年春現在、現場環境は整ってきており、その作業は一歩ずつ進んでいるものの、依然として多くの課題を抱えています。
事故炉の現状
事故を起こした1号機から4号機の現状ですが、1号機では、新たな放射性物質の飛散防止のための大型の囲いの建設が進んでおり、囲いが完成後、使用済み燃料プールの上部の瓦礫の撤去、その後の使用済み燃料(392体)の取り出しが計画されています。融核燃料(デブリ)については手つかずの状況。 2号機では、作業用の前室が建設され使用済み燃料(615体)の取り出しが始まるところ、デブリの試験的取り出しが進んでいます。3号機では、ドーム型の屋根がかけられ使用済核燃料の取り出しは完了していますが、デブリの取り出しは手つかずです。4号機は、使用済核燃料の取り出しが完了、デブリはなく安定した状態です。
取り出されたデブリ 0.7グラム
最大の懸案事項であるデブリの取り出しですが、2号機では2024年11月に燃料デブリの試験的取り出しが行われました。事故によって原子炉内に形成された溶融核燃料(デブリ)は、総量で約880トンと推定されていますが、そのうち0.7グラムの取り出しに初めて成功しました。また、2回目の取り出しも行われましたが0.2グラムしか取り出せませんでした。廃炉プロセスの核心部分に手をかけたという点では前進と言えますが、今後は本格的な取り出しに向けて、遠隔操作技術やデブリ性状の把握、放射線防護措置など、複数の技術的ハードルを越える必要があります。
汚染水処理と海洋放出
並行して進められている汚染水処理も重要な作業です。ALPS(多核種除去設備)による処理水の海洋放出は2023年8月から始まり、2024年以降も継続されこれまでに12回の放出が実施されました。この放出により、溜まっていた汚染水全体の5%程度の削減ができたとのこと、保管タンクの解体も一部始まっています。
国際基準を満たす安全な放出とされていますが、依然として国内外での不安や反対意見は根強く、水産業や観光業への風評被害対策も不可欠です。政府と東京電力は、放出モニタリングの透明性確保や、地元への丁寧な説明を続ける必要があります。
被曝労働の実態
現場で作業に従事する作業員の安全確保も引き続き最重要課題の一つです。視察で回ったエリアでも60μシーベルトを超える高線量であり、さらに事故炉の近くではミリシーベルト単位という桁違いの高線量下で作業が行われています。日々5千人近い作業員が廃炉作業に従事しています。労働環境の改善や健康リスクの管理、技能継承のための人材育成など、多方面での支援が不可欠です。
見直しが必須の廃炉の中長期ロードマップ
こうした状況を踏まえ、東京電力は2024年3月に「廃炉中長期実行プラン2024」を改訂・公表しました。このプランでは、燃料デブリ取り出し工程の再検討や汚染水対策の強化、作業員の安全確保と健康管理の強化などの改訂が盛り込まれています。
問題は、国が定める「廃炉の中長期ロードマップ」です。事故発生から40年で廃炉を完了する計画となっていますが、廃炉の最終の姿も明確になっていない上に、40年での廃炉は係わっているほぼ全ての専門家、関係者が不可能であると指摘しています。デブリの取り出しが極めて困難なことも見えています。実現可能性のない無理な計画に沿って現場作業が続いている状況はなんとしても正さなければなりません。政治の責任で廃炉のあるべき姿からもう一度、議論し直す必要があります。
廃炉作業は困難の連続です。原発事故の現実から目をそらすことなく、日本のエネルギー政策を考えなければなりません。原発事故のリスクがゼロでない限り、原発依存からの脱却が必須です。それが福島の教訓であり、福島への責任です。

