News&Report

2021.10.19

「自然エネルギー立国」へのロードマップ:エネルギー転換戦略 [3]

5つの重点施策、35の目標と政策 (続き)

3.自然災害にも強い再生可能エネルギー100%、分散型エネルギー社会を創ります

 日本は再生可能エネルギーの宝庫です。太陽光発電、風力発電を中心に、地域の合意と参加による環境調和の再生可能エネルギー発電事業を集中的に推進します。再生可能エネルギー−の大量導入を可能にする送電網の整備、蓄電システムの導入、コストダウンのための産業育成・技術開発などにより、安定した低コストの再生可能エネルギー100%を実現します。
 再生可能エネルギーへのシフトは、大規模集中型システムから、自治体や地域主導の分散ネットワーク型システムへの移行を伴うものであり、地域循環型経済の実現、地域の自立と活性化、また自然災害に強い地域作りにもつながります。

  • 再生可能エネルギーの各業界の導入目標の達成をあと押しすることにより、再生可能エネルギーの電源構成に占める割合、2030年50%、2050年100%を実現します。
  • 太陽光発電については、環境破壊につながる大規模開発を抑制し、屋根置き太陽光発電、営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を普及させます。公共施設の太陽光発電設置の義務化、ソーラーシェアリング向けFITの導入などにより太陽光発電事業を支援します。
  • 風力発電については、ポテンシャルの大きな洋上風力発電について、その導入目標を明確にし、ゾーニングを進め導入を加速します。産業の裾野の広い洋上風力発電について、機器製造から建設、メンテナンスまで競争力のある産業となるように国を挙げて支援します。
  • 地熱発電について、日本は世界第3位のポテンシャルを有しています。比較的低温でも発電ができ温泉などとの共存が可能なバイナリー発電を中心に地熱発電開発を進めます。発電で使用した後の余熱を農業や産業などで連続的に利用することで地域経済の活性化に繋げます。
  • 熱エネルギーの地産地消の利活用を強力に推進します。太陽熱・地中熱・河川熱・氷雪熱・温泉熱などの再生可能熱や廃熱の利用拡大、熱電併給のコジェネレーションの導入、地域内の発電所等から出る熱の面的利用(地域熱供給等)などにより、電力と異なり遠くまで運べない熱の特性を踏まえた熱エネルギーの有効活用を進めます。
  • 再生可能エネルギーの大量導入の前提となる電力送電網について集中的な整備、運用の見直しを財政投入も含め国主導で進めます。電力システムのデジタル化、電力市場の機能強化・公正性の確保、デマンドレスポンスの活用といった電力システム改革をさらに進めます。
  • 再生可能エネルギーの大量導入時、電力の安定供給に重要な役目を果たす蓄電池について、揚水発電など大型蓄電設備と合わせて、ユーザーサイドの分散蓄電システム、EV・PHV(PHEV)車の車載蓄電池の活用など、その多様な導入を促進します。次世代の蓄電技術(全固体電池等)の開発を支援します。
  • 水素の活用については、グリーン水素(再生可能エネルギーにより製造される水素)を前提に、EV化が難しい大型バスや大型トラック、船舶などの燃料としての活用、メタネーション技術により作られる燃料(e-fuel)の活用(航空機燃料など)を進める。産業用では水素還元製鉄などでの水素の利用も視野に、余剰の再生可能エネルギーを水素に変換する仕組みの実装を目指します。
  • 地元企業等、地域の様々な主体が参加する地産地消の再生可能エネルギー事業を推進することで、地域における経済循環、地域の自立的発展を実現します。ドイツのシュタットベルケをモデルに地域の特性を活かした再生可能エネルギーの開発を進め、地域の再生、活性化を実現します。また、農業における脱炭素化について、再エネ熱の利用、トラクター等農業機械の電動化を推進します。

4.化石燃料依存社会から「脱炭素社会」へ、公正な移行を実現します

 「脱炭素社会」への移行は大きな社会変革です。これまでの重厚長大型産業、大量消費大量生産の社会から、より付加価値の高い価値集約型産業、環境調和の資源循環社会へのシフトが必要であり、産業構造の変革、ライフスタイルを含めた社会変革を実現しなければなりません。
 労働の公正な移行、企業のイノベーション、地域経済の持続的発展をはかりつつ、これまでの日本社会を支えてきた経済産業構造の変革を実現します。

  • 化石燃料については、COの排出の少ないLNG火力を中心に再生可能エネルギーへの移行期を支えるエネルギーとして、既存設備の有効活用を前提に活用します。国として必要な設備投資・運転コストを支援します。
  • 石油火力、石炭火力については、CO排出量が多いことから、当面緊急時のバックアップ電源としての活用を基本とします。燃料アンモニアの混焼技術など新技術開発を支援し、将来的に燃料アンモニア専焼、CCS、CCUなどのカーボンニュートラルに必要な新技術の可能性を探ります。
  • 産業競争力強化の観点から、製鉄産業などエネルギー多消費産業、脱炭素への対応が求められる自動車産業等へ、産業構造変革を促す財政支援を一層強化します。大きな投資が見込まれる設備更新については、前倒しで実施できるよう各企業の成長戦略を後押しする支援を行います。
  • 中小企業の省エネルギー設備導入を進めるため、省エネ診断や省エネ機器導入への大胆な財政支援を行います。省エネの推進により、中小企業の生産性向上を実現します。
  • 各産業の脱炭素化を進めるにあたり、地域振興、新産業育成、雇用の公正な移行を強力に支援します。特に雇用については新しい成長分野における雇用創出を進めると共に、雇用環境の激変緩和、失業対策として、企業の雇用維持支援、職業教育施策の充実、雇用転換にともなう所得補償制度などを法制化します。
  • 脱炭素の実現を社会全体で支えるカーボンプライシングについて導入検討を進めます。東京都や埼玉県の排出量取引制度を参考に、排出削減を促す制度を全国に展開します。炭素税については、すでに導入されている地球温暖化対策税を基本としつつ、欧米並みの水準を目標に社会的合意のもと段階的な導入を目指します。脱炭素社会への移行の原資とするとともに、企業の競争力を阻害しないように、炭素税を原資に社会保障の企業負担の軽減を実現するなど、税や社会保障など企業負担全体の軽減を前提としつつ導入を進めます。

(続く)