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2022.01.18

再エネで地域活性化、吉野ヶ里の松隈小水力発電所

地域の自然エネルギー資源を有効活用して地域の活性化を実現するプロジェクトである、佐賀県吉野ヶ里町松隈地区の「松隈小水力発電所」を視察してきました。佐賀県の山間地に入る入り口に当たる地域、40戸、125名が暮らす集落に設置されています。総事業費6000万円、30kwというコンパクトなサイズの発電所ですが、2020年11月に運転開始、FITの全量売電(34円/kwh)により年間868万円の売電収入を得ることができています。地域で使うことができる資金が140万円ほど生まれており、地域のイベント支援(小旅行)、住民のカーシェアリングの車購入(計画中)など、地域の活性化につながっています。

発電設備を無理せずコンパクトなサイズにおさえることで、地域の住民主導でも十分に事業化が可能であり、かつ、地域の自然環境との調和も図ることできることが証明されています。小水力発電のプロジェクトでは、適地がなかなか見つからない、採算がとれない、地域の合意形成に時間がかかるなどの課題を抱える事例を多く見てきましたが、今回の松隈小水力発電所はそうした課題を解決するノウハウのつまった事業を言うことができます。モデル事業として全国に紹介してゆきたいと思います。

本事業の成功のポイントを整理します。

〇 小水力発電30kwという規模でモデル化を進めるという手法が佐賀県の主導で、九州大学のベンチャー企業、株式会社リバーヴィレッジ の協力のもと構築されています。欲張らず30kwにサイズを固定することから、導入のハードルが低くなり採算もとりやすくなる、適地も見つけやすくなるといえます。事業主体は地域住民の皆さんが立ち上げた松隈地域づくり株式会社、設計と地域のリードで活躍した(株)リバーヴィレッジさんの存在は極めて大きいです。

〇 本事業では松隈地区を流れる用水路を活用、筑後川水系一級河川田手川の上流部より取水、慣行水利権の最大0.2㎥/秒、落差21.9mの地形を活かして最大出力30kwを実現しています。河川との関係もうまく設計できており、導水管を町道の下を利用して設置するなど土木工事の最適化にも成功しています。

〇 発電設備は3.6×2.5mの小型コンテナにセットされています。工場で組み立てられ現地での設置作業も短時間で完了できたとのこと。クロスフロー水車はインドネシア製を使用、コストダウンが図られている。(インドネシアには水車を製造する企業が集積する産業エリアがありインドネシア国内の水力発電設備の生産で実績を上げているとのこと)コンテナ内には発電機の他、電気設備、制御監視設備もセットされています。インターネットを使うことで、スマホからの遠隔監視も実現できています。

〇 取水施設において問題となる落ち葉などの除塵について、水圧の変化で目詰まりを感知して自動的に発電機へ送り込む水量を減らすことでオーバーフローを起こして落ち葉を押し流す仕組みを導入、人出をかけずに安定的に運転することができています。大変スムーズに処理できており、感動的です。

☆ 自治体の支援が重要、特に発電の適地を見つけるための調査費用について公的な負担があると大変助かるとの話がありました。地域を面的に調査して、水量や水利権の状況、落差などの基本的な情報を整理する作業を自治体が行ってもらえれば、多くの同様の事業を発掘できます。

☆ 地元の事業者からは、水利権のあり方について、見直しが必要との意見がありました。何十年も前に設定された水利権が足かせになって発電事業ができないようなケースが多くある。時代の変化に応じた水利権を見直すことができる制度変更が必要です。

小水力発電の成功事例として多くの示唆を与えてくれるプロジェクトでした。地産地消で電気を賄っているという住民の自負、地区を誇りに思う心や自発の地域づくりへの関心が芽生えてきたとのこと。養蜂家と休耕田を活用する「ミツバチに優しい里づくりプロジェクト」を立ち上げるなど、新しい事業の動きも起きています。地域活性のモデルとして今後も注目してゆきます。

松隈小水力発電所の入り口
インドネシア製のクロスフロー水車、コンパクトにまとまっています
インターネット経由でリアルタイムに運転状況が把握できます
河川からの取水口、砂などの流入はこちらの堀で受け止めます
除塵設備、落ち葉などを水のオーバーフローでうまく排出しています
地元紙の紹介記事
貴重な事業データ、参考になります