山崎誠政策研究所通信013号(20191015)
災害大国日本、命を守るために今なすべきこと
台風19号、死者66名、行方不明15名の大災害
千葉県を中心に大きな被害と長期停電をもたらした台風15号に続き、台風19号が日本列島に襲来しました。
19号は12日19時前に大型で強い勢力のまま伊豆半島に上陸、関東地方を通過し13日未明には東北地方を襲いました。台風本体の発達した雨雲や台風周辺の湿った空気の影響で、静岡県や関東甲信地方、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨となりました。10日からの総雨量は神奈川県箱根町で 1000ミリに達し、関東甲信地方と静岡県の 17地点で500ミリを超えるなど記録的な大雨になりました。
河川の氾濫が相次ぎ、中小河川の他、千曲川、阿武隈川など大規模河川まで同時多発的に氾濫する事態となり、きわめて広範囲で浸水被害が発生しています。土砂災害も数多く発生、多くの人命が失われ、今も行方不明者の捜索が続いています。(被害状況は10月15日 日本経済新聞夕刊)
災害大国でも災害対応後進国という事実
人命救助最優先で行方不明者の捜索を進めると共に、土砂災害などの危険に対処することが急務であることは言うまでもありません。
それと共に重要なのが災害関連死の防止です。避難生活を強いられている方々の健康管理がきわめて重要です。現在、一時避難を含めて大変多くの方が避難所で過ごされており避難生活の長期化も予想されます。避難所では多くの方が床に直接寝る、いわゆる雑魚寝になっていますが、このような寝方をしているとエコノミークラス症候群にかかるリスクが高くなります。数日間でも十分に体を動かすことができない不活性状態でいると、血栓が生じ脳梗塞や心筋梗塞など命に係わる病気に繋がるという研究データもあります。
こうした危険な雑魚寝を解消するために簡易ベッド(段ボールベッド)の利用を勧めていますが、避難者や現場の担当者に知見が無いためにせっかく準備ができる簡易ベッドが利用されずにいるのが現状です。司令塔であるはずの内閣府防災もガイドラインに記載しているだけで、簡易ベッドの利用促進に積極的に取り組んでいるとは言えない状況です。
これはほんの一例ですが、避難所の衛生の問題、食事の問題など、日本の災害対応は知見の積み上げがなく、世界の標準からも大きく遅れているのです。
海外の事例に学ぶ、「人」を中心にしたイタリアの災害対応
昨年12月にイタリアの市民保護省(ローマ)、アブロッツォ州の市民保護局、ラクイラ仮設住宅等を視察してきました。
日本と同様、火山や地震、水害等の自然災害が頻発するイタリアは、災害のたびごとにシステムをアップデートし災害対応能力を高めてきています。現在では全国に広がる組織的災害対応が確立しています。
イタリアの「市民保護省」(職員数700名)は、防災対策・人命救助・被災者支援・防災訓練等の任務を一括して担当する首相直轄の組織であり、その指揮下に地方自治体、ボランティア組織等が置かれています。
法律では、災害発生から35分以内に災害対策会議が開かれることとなっており、2009年のラクイラ地震時は、午前3時32分の発災後、午前4時14分に会議が開かれ、発災から約1時間後の午前4時40分には支援部隊が出発したとのこと。
イタリアの災害対応の大きな特徴はボランティアが大きな役割を担っている点です。イタリア全土に80万人(登録は125万人)のボランティアがスタンバイしており「市民保護省」の建物の中には46のボランティア団体が常駐しています。ボランティアと言っても日本とは違い、それぞれが専門性を活かした任務に当たることになっています。
地下にあるオペレーションルームでは、平時から24時間3交代制でモニター監視や全国からの情報収集を行っており、陸海空軍、警察、消防、赤十字が常駐し、分野別にモニターで監視しています。
イタリアでは被災者に我慢をさせない、「人」として必要なサービスを平時と同レベルで提供することを目標としています。
災害対応の司令塔となる「市民保護省」の機能、平時からスタンバイする組織体制、十分な資機材の備蓄、避難生活のスタンダードの確立、災害モニタリング、発災時の初動対応など、イタリアに比較して日本の災害対応は大変遅れています。
イタリアの「市民保護省」に相当する、災害対応を担う専門組織「防災省」がどうしても必要です。災害対応の知見を集積して、次の災害に活かす防災システムの構築を提案してゆきます。
巨大化する自然災害、ハード整備だけでは命を守ることはできません。
災害対応の知見を集めたソフト面での仕組み作りが急務です。
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